例えば、部屋の掃除が終わったあと、ミニショルダーバッグが見当たらなくなったとします。
「確か、クローゼットの一番上に片付けたはずなのに?」と、片付けたこと自体を覚えているのは、加齢による生理的な物忘れと考えられます。
一方、ミニショルダーバッグを片付けたかどうか思いだせない、つまり「体験そのものを忘れてしまう物忘れ」が続くという場合は、軽度認知症による物忘れの可能性が否定できません。
今回は、加齢による物忘れと、軽度認知障害が疑われる物忘れの違いについてご説明します。
「加齢による物忘れ」と「軽度認知障害が疑われる物忘れ」の違い
年齢を重ねるごとに、記憶力は徐々に衰えていきます。加齢による物忘れは誰にでも表れるものですが、これと間違いやすい症状が「軽度認知障害(MCI)」です。
「加齢による物忘れ」と「軽度認知障害が疑われる物忘れ」には下記のような違いがあります。
加齢に伴う物忘れ | 軽度認知障害が疑われる物忘れ |
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■体験したことの一部を忘れる 例1:昨日の夕食のメニューが思い出せない。 例2:結婚式に出席して、その日に起こったいろいろな出来事の詳細は忘れてしまっていても、結婚式に出席したこと自体は覚えている。 例3:預金通帳をどこかにしまったことは覚えているが、どこにしまったのかが思い出せない。 |
■体験したことそのものを忘れる 例1:昨日、夕食を食べたこと自体を忘れてしまう、あるいはついさきほど食事をしたことを忘れて、「まだ、ご飯を食べていない」という。 例2:結婚式に出席した、そのこと自体を覚えていない。 例3:預金通帳をどこかにしまい込んだこと自体を忘れてしまっている。 |
■物忘れの自覚がある 例:知っているはずの人の名前や電話番号、ときどき行くレストランやバス停の名前が思い出せないことが増えてくるが、それに自分で気づいており、気にしている。 |
■物忘れの自覚がない 例:知っているはずの人の名前や電話番号、ときどき行くレストランやバス停の名前が思い出せないことが増えてくるが、そのことを自分ではわからなくなっている。 |
■ヒントがあれば思い出す 例:かつての有名な俳優さんの名前をすぐに思い出せなくても、その俳優さんが出演していたドラマや、結婚した相手などの情報を得たりすると思い出す。あるいは、あとになってから、ちょっとしたきっかけで思い出したりする。 |
■ヒントがあっても思い出せない 例:まわりの人からヒントをもらっても思い出せない。 |
■日常生活に支障はない 例:物忘れが気になっても、「お風呂に入ろうとしない」「歯磨きを忘れる」などの不潔行為や、外出時に頻繁に玄関の鍵を閉め忘れるなどの問題行動は見られず、日常生活に支障はない。 |
■物忘れが進行し、日常生活に支障をきたす 例:物忘れの程度がだんだんひどくなり、「物盗られ妄想」などで家族を困らせるとか、散歩に出た際に自分がどこにいるのかわからなくなってヘトヘトになり、結局、警察のお世話になったりと、日常生活に支障をきたすようになる。 |
違和感を感じたら早めに受診を
毎日の生活の中で「なんとなくおかしい」という違和感や不安があったら、早めに「物忘れ外来」などを受診することが大切です。専門医にこれからの対応策について相談しましょう。