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ダンスで認知症を予防

ダンスで認知症を予防

ダンスと認知症

各種認知症関連施設では、認知症予防や進行抑制を目的として、ダンス療法を取り入れるところが増えてきています。

有酸素運動・筋トレ・音楽・五感刺激などを組み合わせた色々な認知症予防ダンスが台頭しています。

ダンスは、ときに、振付を覚えたり、いろいろな動きで感情を表現するなど、楽しみながら頭を使う運動です。

また、レッスンを通して、メンバーやパートナーとコミュニケーションを図れることから、認知機能低下の予防にも有効だとされています。

ダンスが脳に与える影響

ダンスをすることによって、筋肉が動きます。
人は、動かしている体の部位に意識を集中しているわけですが、そのとき、脳と筋肉はつながっているのです。

脳と筋肉を繋いで使うことで、脳が活性化します。

ダンスが脳に与える影響を考察した海外論文なども発表されていますが、
ダンスグループの方が、他の運動実施グループに比して、記憶を司る「海馬」の体積が増えていることが実証されています。

つまり、1年半のダンストレーニングを行ったグループは、バランス感覚が統計的に有意に上昇していたとか。

ダンストレーニングの内容は、重心移動や回転、片足立ち、スキップやバレエの動き、ジャズダンスのステップなどの基本的なダンスの動きですが、加えて、振付を覚えてもらった由。

そして、MRI画像から、記憶を司る脳の「海馬」という部分の体積につき、左の海馬のCA1、CA2、海馬台の体積が増加。
さらに、左の「歯状回」と右の海馬の体積も増えているという結果が出たとのこと。

ダンスの健康効果

① フレイル及びサルコペニアの助長を防止

フレイルの中核的な症状であるサルコペニアは、加齢に伴って筋肉の量と筋力が低下するという症状を呈します。
この筋力低下、特に下肢筋力の低下は転倒の重要な危険因子になっています。
転倒は、骨折あるいは閉じこもりによる寝たきり状態を引き起こす恐れがあり、結果、フレイル及びサルコペニアの助長を招くことになります。

サルコペニアによる筋力低下は、上肢よりも下肢、特にふくらはぎの筋肉などの姿勢を保つ筋肉の筋力低下が顕著に見られます。
ふくらはぎの筋肉の筋力を向上させるためには、つま先立ちを繰り返す方法が有効とされています。

これが、ダンスの健康効果を生じさせている、主な要因となっています。

ダンスの中でも、ヒールの高いダンス用シューズを履くことになるボールルームダンス(舞踏会のダンス)や社交ダンスやベリーダンスは、
自然に、つま先立ちを繰り返すことになるため、ダンスのレッスンが、そのまま、ふくらはぎの筋肉の筋力を鍛えることにつながります。

② 四肢の柔軟性の向上も

また、四肢の関節を、日常で使う範囲を超えて大きく動かすことによる柔軟性の向上も挙げられます。縮んでいる後ろ側の筋肉であるふくらはぎを伸ばすことで、より良く縮む柔軟性がついてきます。
柔軟性が保てると、全身の血流がよくなり、むくみも改善されます。

これはストレッチングによる効果とほぼ同じ運動効果が期待でき、肩こりや腰痛といった不定愁訴を解消する効果も生じます。

③ ロコモティブシンドローム(通称ロコモ)への対策にも

ロコモティブシンドロームとは、移動に関わる体の動きを担う筋肉・骨・関節などの「運動器」に障害が起こり、立ったり、歩いたりしづらくなって日常生活に支障をきたしつつある状態を指します。

運動器の障害による要介護の状態や、要介護リスクの高い状態を表す新たな概念として日本整形外科学会が、2007年に提唱したものです。

ロコモ予防のための運動として、日本整形外科学会が推奨しているのが、太ももの後ろなど大きな筋肉を鍛えるための「スクワット」と、バランス能力を鍛える「開眼片脚立ち」です。

そして、スクワットも開眼片脚立ちも、ダンスの表現型の一種であることから、ダンスは、今後、高齢者への健康効果が大きく期待される運動種目となる可能性が高いと言えるでしょう。

※引用:ダンサーなら知っておきたいトレーニングのこと(水村真由美著、大修館書店、P123-125)から、適宜抜粋

ダンスが認知症予防に効果的な、その他の要素

① 音楽にあわせてステップを覚える⇒反射神経の刺激し、動作の記憶が知的行動に繋がっていく。

② 全身を動かす⇒有酸素運動で身体機能維持に寄与する。

③ メンバーやダンスパートナーなど、人との関わり⇒ 判断力と脳の活性化

上記3点のうち、特にダンス療法・ダンストレーニングにおいて特徴的なのは、「③」つまり、社会との接触なのです。
ダンスは、社交ダンス・ボールルームダンス(舞踏会のダンス)・サルサ・フォークダンス等さまざな種類がありますが、メンバーやパートナーとペアになって踊るケースが多い。

そこに他者との関わりが生じて、心遣い/幸せホルモンと言われるオキシトシンが作用し、精神的な満足感の決め手となって海馬の神経形成を促し、ストレスが和らげられて、持続的な思い出のスペースを創ることができるようになるのです。

ダンス療法の場合、ヨガや太極拳、呼吸法、マインドフルネス(瞑想法)などに比べると、単独で行う個人エクササイズというより、むしろ、他者とのコミュニケーションが発生する社会療法という印象が強くなります。

≫【コラム】愛情ホルモン「オキシトシン」

④ 目的を設定しやすい

例えば、社交ダンスやボールルームダンスの場合、必ず「発表会」が設けられています。
その発表会までに、振り付けを覚えて、人様の前で披露する、ということは、明確な目標になり得ます。
また、その際には、化粧や衣裳への配慮も必要となり、それが脳を活性化させる要素にもなります。
MCIの段階で、社交ダンスを習い始めたとして、各ダンス教室主催のダンスパーティに出席するまでに回復することが望めますし、その次の段階として、たとえば、オーストリア医師会主催の舞踏会に出席したり、モナコ公国主催の舞踏会に出席したり、などの華やかでワクワクする体験にも踏み込むことができる可能性が拓けてきます。