私たちのカラダを構成する元素のなかで、酸素・炭素・水素・窒素の4つを除いた他の元素をミネラルと呼びます。
ミネラルの中でも極めて少量しか存在しないものは「微量元素」と呼ばれ、私たちの健康や病気と深いつながりがあることが明らかになっています。微量元素は、欠乏したり過剰摂取したりしないように、適量を摂取することが大切です。
今回は、認知症とも関係の深い微量元素「亜鉛」「セレン」「リチウム」についてご説明します。
亜鉛
老化は、低亜鉛値と関連すると言われています。
亜鉛欠乏症は、特に高齢者に広まっており、軽度認知障害(MCI)を含む認知症の誘発要因になっています。実際に、MCIを含む認知症の人においては、非常に亜鉛値が低く、健康な人の半分程度まで下降している由。
ただ、高齢者のみならず、ほとんどの人が亜鉛欠乏症であることを鑑み、日々の亜鉛摂取は意識的に心がける必要があるでしょう。亜鉛が多く含まれる食品には下記のようなものがあります。
亜鉛不足になる原因は?
亜鉛は、神経毒性を持つグルタミン酸が過剰に分泌されるのをブロックし、海馬の神経が毒化するのを防いでいます。そのため、亜鉛の不足は、認知機能障害の一因となります。亜鉛不足になる主な原因は、以下のようなことだとされています。
- 偏った食事
- 極端なダイエット
- Ⅱ型糖尿病
- 亜鉛の吸収を阻害する、食品添加物を含む加工食品やレトルト食品の多用
- アルコールの飲み過ぎ
お酒を飲むと体内の亜鉛が消費されるのみならず、お酒が尿中への亜鉛の排泄を促します。また、亜鉛は汗や尿から排泄されるため、肉体を酷使して大量の汗をかく傾向が多いアスリートやスポーツ選手においても、不足しやすい栄養素です。スポーツ貧血のひとつに亜鉛欠乏性貧血があります。
いずれの場合でも、サプリメントでの亜鉛の補充は視野に入れておく方が良いでしょう。
また、体内の亜鉛が非常に少ないと、銅が過度に多くなり、認知症と関連してきます。亜鉛と銅の比率については、医師に確認してもらうことをお勧めします。
セレン
グルタチオンペルオキシダーゼという酵素ファミリーがあります。この酵素は、人間の肝臓で作られる非常に強い抗酸化作用を持つ物質なのですが、主要成分が、人にとって必須の微量元素である「セレン(セレニウム)」なのです。つまり、セレンを、その活性中心に持ちます。
セレンが欠乏すると、グルタチオンペルオキシダーゼの量が減って、体の抗酸化力が低下することになります。
抗酸化力が低下すると、体内で日々発生している活性酸素によって、全身の細胞や血管が傷つき老化します。活性酸素を無害化して、細胞の血管のダメージを修復するためには、抗酸化作用のあるセレンが必須ということになります。
セレンと認知症の関係
セレンが欠乏しないように注意することは、認知症の予防においても大切なことです。
例えば、世界で最も認知症死亡率が高い国にフィンランドがあります。その原因を探った研究報告によると、フィンランドの土壌中にはセレンが不足しているということがわかった由。そのため、政府が中心になってセレンを耕作地に散布し、国民がセレン不足に陥らないよう配慮しているとか。
セレンを多く含む食品
セレンの欠乏により、神経毒性をブロックする働きをもつグルタチオンペルオキシダーゼの量や有効性も低下する懸念が出てきます。
セレンが多く含まれる食品には下記のようなものがあります。
セレンの理想の摂取量は、1日50~200マイクログラムです。但し、微量元素を摂取するときは、バランス良く摂ることが大切です。単体の微量元素を大量に摂ると、身体にとって逆に有害になることもあるからです。
例えば、セレンと亜鉛は両方共、免疫力や抗酸化力を高めて、認知症を始めとするさまざまな病気の予防に効果がありますが、両者は拮抗的です。
つまり、亜鉛の摂取量を増やすとセレンの吸収は低下します。理由は、亜鉛の血中濃度が高いときには、セレンの血中濃度は低いという両者の拮抗関係によるものです。
リチウム
リチウムは、以前から双極性障害(躁うつ病)の治療に使われてきました。この軽金属は、海馬の神経形成を活性化し、抗うつ剤のような働きをすることがわかっています。
そして、最近になって、リチウムが認知症を予防するかもしれない、という研究結果がデンマークから出てきたのです。
臨床研究で示された、認知症治療に効果的なリチウムの量は、一日当たり0.3ミリグラム程度。その量を摂取するためには、毎日リチウム入りのミネラルウォーターを飲むのが良いとされています。
また、リチウムを多く含む食品である、青のり・わかさぎ・小麦胚芽・ひじき・マイワシのような小魚などを積極的に食事で摂取することもお勧めです。
リチウムが欠乏していないかどうか、欠乏しているようであればどう対処したらいいかを主治医に相談してみるのが良いでしょう。