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認知症介護

認知症介護

認知症介護とリハビリ

認知症の人とその家族の生活を支える仕組みの構築に関しては、国レベルですでに実施され始めています。2015年に発表された「認知症施策推進総合戦略:認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて(新オレンジプラン)」がそれです。この「新オレンジプラン」の構想のもと、認知症の人が、住み慣れた地域の良い環境で、自分らしく暮らし続けるために必要な施策が、7つの柱に沿って、総合的に推進されています。

その「新オレンジプラン」の6つ目の柱に「認知症の予防法、診断法、治療法、リハビリテーションモデル、介護モデル等の研究開発およびその成果の普及の推進」という項目があります。

ここでは、「介護モデル」と「リハビリテーションモデル」につき、ご紹介してみたいと思います。

介護モデル

1. パーソンセンタードケア(Person Centered Care)

パーソンセンタードケアは、英国の臨床心理士、故トム・キッドウッド氏が提唱した認知症介護の理念で、「認知症高齢者を一人の人として尊重し、その人の視点や立場に立って理解しながらケアを行う」というものです。

トム・キッドウッド氏とその研究グループは、ケア現場で認知症の人の観察を行い、認知症の人が心の中で望んでいることや欲求を、「一人の人間として尊重されること」を中心に、「自分が自分であること」「結びつき」「共にあること」「くつろぎ」「たずさわること」という6つの要素に分析しました。

そして、このパーソンセンタードケアを実際の介護の現場で行うために、活用されている方法に、「認知症ケアマッピング法(Dementia Care Mapping:DCM)」があります。

 

「認知症ケアマッピング法」とは?

認知症高齢者を数名のグループに分けて、研修を受けた観察者(マッパー)が、各人の行動を6時間以上、連続して観察し、5分ごとに記録を行います。

記録事項:
①本人がどのような行動をしているか。
②本人が良い状態か、良くない状態か。
③本人と介護スタッフとの関わりはどうか。

これらを表にしたものを「マップ」と呼び、認知症本人がどのようなケアを受けて、どのような状態にあるかの概観を把握することができます。

2. ユマニチュード(Humanitude)

フランス語で「人間らしさ」を意味する「ユマニチュード」は、とりわけ認知症の人に有効だとされるケアメソッドで、フランスで生まれて39年の歴史を持ち、日本の医療機関や介護施設でも普及しつつあります。

ユマニチュードの基本は、「見つめる」「話しかける」「やさしく触れる」「立たせる」の4つであり、知覚・感情・言語による包括的なコミュニケーションに基づくケアです。

■見つめる
同じ目線で正面から穏やかに目と目を合わせる。

■話しかける
反応がなくても何回でも優しく話しかける。

■やさしく触れる
「いきなり」「荒っぽく」は禁物。背中などの鈍感な部分からできるだけ広い面積に触れる。顔や陰部などは最後に触れるのが原則。

■立たせる
寝たきりをなくすために、1日最低20分は立つように、積極的にサポートする。認知症の人の「立てる能力」を最大限引き出す。

上記4点から、さらに進めて、「認知症の人の心をつかむ5つのステップ」で「ユマニチュード」は実践されます。

ステップ1.出会いの準備
ステップ2.ケアの準備
ステップ3.知覚の連結
ステップ4.感情の固定
ステップ5.再会の約束

 

認知症の人の心をつかむ5つのステップ

この「認知症の人の心をつかむ5つのステップ」を、例えば、食事に招かれて、友人宅を訪問した場合と比較して、理解を深めてみましょう。

認知症の人の心をつかむ5つのステップ 食事に招かれて友人宅を訪問
①出会いの準備
②ケアの準備
玄関ドアの前で呼び鈴を鳴らして友人と挨拶を交わします。
③知覚の連結 食卓に案内されて食事が始まります。
④感情の固定
⑤再会の約束
食事が終わったら、「今日は、おいしい食事を」ありがとうございました。楽しかったです。今度は、こちらがご招待します。また、会いましょう。

これら、4つの柱と5つのステップは、認知症の人の、人間としての尊厳を守りながらケアを行い、「あなたは、大切な存在である」ことを認知症の人に伝え続けるための手段となります。

結果、ケアされる人が興奮したり拒否したりせず、安心感と信頼感に満ちた穏やかな介護が成立する可能性が高くなります。

3. バリデーション療法

アメリカ発祥の認知症ケア技術であり、「共感」と「傾聴」を基本とする、認知症者とのコミュニケーション技法です。バリデーション療法では、認知症の人が大声を出したり、徘徊したりすることにも、すべて「意味がある」「理由がある」と解釈し、なぜ、そのような行動をとるのかについて思いをめぐらせます。

認知症者の訴えや考えに理解を示しながら、共感をもって接することを基本姿勢とし、認知症者が伝えたいことがあると察せられる場合は、傾聴します。

この「傾聴」は、バリデーション療法で特に重視されているコミュニケーション法です。傾聴する際のいくつかのテクニックとしては、以下のようなものがあります。

■アイコンタクト
相手の人格を認めているというサインを伝えることになる。

■オープンクエスチョン(開かれた質問)
「はい、いいえ」で答えられる質問ではなく、「いつ」「どのように」「どこで」「なぜ」「誰」「何」(5W1H)といった自在に回答できる質問を投げかけることで、認知症者の考えを具体的に知りやすくなる。

■相槌やうなずき
認知症者の話に反応すると、認知症者の応答も促進される。

■沈黙
傾聴していることを認知症者に伝えることになる。また、認知症者の訴えを聴取することができる。

■繰り返し(リフレージング)
「あなたの言うことは理解できました」というメッセージとなり、認知症者を安心させる。

■レミニシング(懐かしい思い出話)
過去を尋ねることで、見当識障害のある人が失ってしまったものを取り戻すことができることがある。

■不穏な症状が現れたときは、「愛されたい」「感情を発散したい」などの人間的欲求のどれに当てはまるか、を考える。

■要約
聴取したことをまとめて、話の要点を絞り込むことによって、認知症者は、自分に関心をもって対応してくれていると感じるので、話をさらに発展させることも可能となる。

また、バリデーション療法において、認知症者と接する上で、「嘘をつかない」「ごまかさない」ことで、認知症者との信頼関係が深まっていきます。

リハビリテーションモデル

1. 認知症短期集中リハビリテーション(認短リハ)

略称「認短リハ」の「認知症短期集中リハビリテーション」は、代表的なリハビリテーションモデルと言えるでしょう。

「認短リハ」とは、介護老人保健施設(老健)での、認知症の生活機能の改善を目的とした個別リハビリテーションのことを言います。介護保険で認められている認知症リハビリテーションで、入所もしくは通所から3ヶ月間、週3回、セラピスト(理学療法士)/作業療法士/言語療法士が個別リハビリテーションを行うと算定できるものです。

また、行動心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:BPSD)を有する認知症利用者に対する「認知症ケア加算」「認知症行動心理症状緊急対応加算」なども設けられています。

認短リハは、認知症の進行に伴って失われた、認知症者の心身と生活での活動性を取り戻すことをポイントとしています。そのため、認短リハは、各種の活動「プログラム」を組み合わせて、介護スタッフと協力のもとで行われます。

各種の活動プログラムとしては、回想法・運動療法・音楽療法・日常生活動作(Activity of Daily Living:ADL)訓練・現実見当識訓練などがあります。

そして、退所時には、入所時にあった認知機能面や身体面での混乱が収まり、見当識の改善や歩行・床上動作・持久力の改善が見られることが報告されています。

介護老人保健施設での認知症短期集中リハビリテーションは、介護保険による重度化防止の観点から、明らかな効果を示していると言えるでしょう。

2. 脳活性化リハビリテーション(脳活性化リハ)

「脳活性化リハビリテーション」は、認知機能そのものを向上させようとする認知リハとは、若干、その方法を異にしています。つまり、認知症者の残存機能を生かして生活機能の向上を目指すリハビリテーションなのです。

認知症の人と、何を目的として、どのように関わるかをルール化した「脳活性化リハビリテーション(脳活性化リハ)5原則」を掲げています。

 

「脳活性化リハビリテーション(脳活性化リハ)5原則」とは?
①快刺激
セラピストも認知症者も共に“快” で,笑顔でリハを行うことによって、認知症者の意欲を高める。

②褒める
褒められることによって、認知症者の生活意欲や学習意欲が高まる。

③双方向コミュニケーション
親愛の情を示したコミュニケーションは、認知症者の不安や喪失感を低減する。

④役割
簡単な作業であっても、役割を持つことによって、認知症者の不安は和らぎ、人としてのプライドも高まる。認知症者を主役として活動させ、セラピストは、それを支えるというスタンスが望ましい。

⑤失敗を防ぐ支援
認知症者の「得意なこと」と「苦手なこと」をセラピストは見極めて、「得意なこと」で残存能力を引き出しながら、最低限の援助でうまくできるようにして、認知症者に成功体験を経験させる。

この「脳活性化リハ5原則」に基づいて、回想法を実施し、回想法実施充実度と介入効果との関係を明らかにした論文なども公表されています。

そして、やる気スコアの有意な改善や、回想法観察評価尺度(Reminiscence Observational Rating Scale:RORS)の「情緒面」での有意な向上につき、報告されています。