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認知症と診断されたら

認知症と診断されたら

認知症の治療

認知症と診断が確定したら、以下のような事柄が医療機関側から伝えられます。

  1. 病名の告知
  2. 病気についての説明
  3. 治療薬の選択
  4. 生活上のアドバイス
  5. 介護者へのアドバイス
  6. 社会資源の活用としての介護保険申請のお勧め
  7. 運転免許証の返納のお勧め

根治薬がない現状で、目指すは、「認知症の進行抑制あるいは重度化防止」ということになります。

その際に、薬物療法と非薬物療法を組み合わせたり、中核症状、及び症状進行と共に出現する周辺症状(Behavioral and Psychology Syndrom of Dementia:BPSD)の改善を意識したパーソンセンタードケアを念頭に置いて、認知症患者に接することが必要となってきます。

パーソンセンタードケア(Person Centered Care)とは?

「利用者中心のケア」あるいは「その人らしさを尊重するケア」と呼ばれており、患者各人の「個別性」を尊重し、生活を支えるケアのことを意味します。認知症の中核症状とは、

  1. 記憶障害(近い記憶から失われる)
  2. 見当識障害(時間や場所がわからない)
  3. 実行機能障害(段取りができない)
  4. 失語・先行・失認(言葉が出ない・日常動作ができない)
  5. 問題解決能力の障害(理解・判断力障害)

認知症の周辺症状

認知症の周辺症状とは、周辺症状行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:BPSD)とも呼称され、個人差が大きく、介護者を、さらに困らせる症状を言います。

  1. 暴言・暴力
  2. 多動
  3. 睡眠障害
  4. 意味のない作業を繰り返す仮性作業
  5. 興奮
  6. 徘徊
  7. 異食
  8. 過食
  9. 幻覚
  10. 妄想
  11. 不潔行為
  12. 介護への抵抗、etc.

薬物療法(主に、完治が難しい認知症の場合)

記憶障害や見当識障害などの中核症状や、症状進行に伴って表れる周辺症状に使用されます。薬物療法には副作用などの注意点もあり、それらを理解しておくことが大切です。

認知症治療薬の種類

認知症薬で認知症を完治させることは、現時点では不可能であるものの、進行を遅らせるタイプの医薬品は、いくつか出ています。アリセプト・レミニール・イクセロンパッチ・リバスタッチパッチ・メマリーなどです。

メマリーを除く4剤は、「コリンエステラーゼ阻害薬(アセチルコリンエステラーゼ阻害剤: AchE阻害剤)」と呼ばれ、特定の酵素コリンエステラーゼが、神経伝達物質アセチルコリンを分解しないように作用します。結果、脳内のアセチルコリンを増やし、症状の進行を遅らせるメカニズムです。

コリンエステラーゼ阻害薬とメマリー(メマンチン)の併用は可能であり、認知機能低下をさらに遅くします。

認知症の中核症状を標的とした中核薬
商品名(薬品名) 効果 主な副作用
アリセプト(ドネペジル塩酸塩) アルツハイマー型認知症及びレビー小体型認知症の症状の進行抑制 嘔気、嘔吐、食欲不振、下痢、興奮、不整脈、心筋梗塞、消化性潰瘍など
レミニール(ガランタミン) 軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症の症状の進行抑制 悪心、食欲不振、下痢、めまい、不整脈、肝炎など
イクセロンパッチ、リバスタッチパッチ(リバスチグミン) 軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症の症状の進行抑制 紅斑、掻痒感、接触性皮膚炎、浮腫、嘔吐、悪心、食欲減退、不整脈、脳血管発作など
メマリー(メマンチン) 中等度及び重度アルツハイマー型認知症の症状の進行抑制 めまい、頭痛、食欲不振、便秘、血圧上昇、肝機能障害、黄疸など

認知症の周辺症状の改善を標的とした薬

中核薬であるアリセプトの用量の増量や抗精神病薬・抗不安薬・抗うつ剤・抗パーキンソン病薬・睡眠薬などが投与されることが多いのですが、過剰鎮静・日中の眠気・血圧低下・口喝・便秘などの副作用が発現することも、まま、ありますので、家族は、医師から十分な説明を受けてから、投与を開始するか否か、決めるのがベターでしょう。

また、漢方薬「抑肝散」(ヨクカンサン)が周辺症状の治療に、たびたび用いられています。

漢方薬「抑肝散」(ヨクカンサン)とは?

抑肝散は、興奮気味で多動な患者には、特に効果を発揮する漢方薬です。認知症患者の幻覚・妄想・興奮・暴言・介護抵抗などの周辺症状に対して鎮静作用があり、また、幻覚や妄想を軽減したり、睡眠を改善したりすることもあります。

ただし、抗認知症薬とは異なり、認知機能の改善は望めません。

「抑肝散」の副作用及びデメリット

副作用としては、低カリウム血症が最も注意すべき症状です。低カリウム血症になると、筋力低下や筋肉痛、悪心・嘔吐・痙攣などの諸症状が発現しますし、さらに重度になると、四肢麻痺や自律神経失調、筋肉痙攣、呼吸麻痺、不整脈などに至ります。

その他のデメリットとしては、粉薬のため、飲みにくいということが挙げられます。そのため、認知症患者では、服用をいやがることがあります。

加えて、漢方薬の服用は、食後ではなく、食前か食間であるため、他にも服用すべき薬が多い高齢患者の場合、心理的負担となることが多いです。服薬管理が適切に行われなくなる懸念があります。

努力が続く新薬開発

現在、次世代の認知症治療薬の開発が製薬企業によって進められていますが、それらは、アミロイドベータ仮説に基づいています。

アルツハイマー型認知症患者の脳内に、タンパク質の一種であるアミロイドベータやタウなどが過剰に蓄積して神経細胞の死滅の原因となっているとする説です。そのため、アミロイドベータを減少させる「抗アミロイドベータ抗体」や、アミロイドベータそのものができるのを防ぐ「セレクターゼ阻害剤」、タウタンパクの神経原線維変化を阻害する薬剤などが開発の主流となっています。

しかし、現在のところ、ベータアミロイドが凝固して毒化するのを抑える有効成分は、まだ登場していません。

ただ、米国National Alzheimer’s Project Act, G8認知症サミット、Researchers Against Alzheimer’s (RA2)では、疾患修飾薬の開発を加速し、2025年までに市場化することを目標に掲げているとか。

近い将来、「認知症は薬で治る」という時代が到来するかもしれません。

新たな挑戦-超音波治療

認知症の代表的な病態のひとつであるアルツハイマー型認知症につき、いくつかの症状改善薬は開発されているものの、根治薬は登場していない状況が続いていましたが、最近、新たな根治的治療方法が開発されました。

低出力パルス波超音波(Low-Intensity Pulsed UltraSound:LIPUS)が、それです。東北大学大学院医学研究科と同大学加齢医学研究所の研究グループが発表しました。

LIPUSを用いた治療は、薬物ではなく、物理刺激を用いるため、薬物では通過しにくい血液脳関門の影響を受けることなく、十分な治療効果が得られるとのこと。当グループは、この低出力パルス波超音波を全脳に照射すると、進行性の認知機能低下が抑制される可能性があることを、マウスを用いた二つの認知症モデルから見出した、と報告しています。アルツハイマー型認知症の動物モデルで、その2大病理のひとつであるアミロイドベータの脳への蓄積を有意に減少させた由。

LIPUSによる治療は、患者さんが頭にヘッドギアをつけてベッドに横たわってもらうだけ。超音波は痛みも違和感もないので、本当に寝ているだけで終わるとのこと。血液脳関門の影響を受けることなく、自己修復能力を活性化して治療効果が期待できる革新的な低侵襲治療です。

加えて、治療コストは電気代くらい、とのことなので、大病院のみならず、市井の街のお医者さんでも導入が可能となるでしょう。

LIPUSは、世界で初めて、実際に臨床の現場で、その有効性と安全性を評価する探索的医師主導治験が、近々、開始される予定とのことです。