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プレクリニカル認知症あるいは軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)と診断されたら

プレクリニカル認知症あるいは軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)と診断されたら

認知症の治療

プレクリニカル認知症は、認知機能の低下を本人が自覚しているが、客観的には認知機能の低下が認められる、という認知機能障害のごくごく初期の症状を言います。

物忘れの症状は、あっても、わずかで、脳内にベータアミロイドやタウタンパクが若干、蓄積し始めてはいるものの、脳細胞のダメージは見られません。この段階で、主に生活習慣病の治療や「非薬物療法」」を積極的に行うことによって、軽度認知症障害や認知症への移行を防ぐことができます。

他方、MCI(軽度認知障害)とは、物忘れなどの症状があり、自覚的にも客観的にも記憶障害が存在するものの、自立した生活が送れており、日常生活や社会生活に大きな支障はない、という状態です。

しかし、MCIと診断された人の一部は、認知症に移行することがあります。MCIから認知症に移行する割合は、健康な人に比べて高くなっており、そのリスクは高いと言えます。

ただ、MCIは認知症の発症前の段階ということもあり、早期発見・早期予防によって、正常範囲に回復する見込みがあるのではないか、発症を遅らせたり、進行をゆるやかにすることが可能なのではないかと考えられています。

まずは、認知機能の回復が肝要ですが、そのためには、「非薬物療法」で、身体的機能と認知機能の活性化を促すことが推奨されています。

認知機能低下の予防法としての非薬物療法とは?

認知機能低下の予防法としては、運動療法、認知刺激トレーニング療法、回想法などが主要な非薬物療法と言われています。

これらの非薬物療法は、海馬での神経新生に欠かせない条件ではあるものの、その新しい神経が成熟し、成長するためには脳が必要とする栄養を脳に与えなければなりません。必要な栄養が腸から確実に吸収されて、血液に乗って必要な細胞に届けられれば、細胞のひとつひとつが元気を取り戻します。

また、認知症の発症リスクを高める糖尿病・高血圧・脂質異常症などの改善には、食生活の見直しが不可欠です。食生活は、正常な脳機能を支える最も基本的な土台と言えるでしょう。

非薬物療法としての食生活の改善

私たちの記憶や認知能力が、高齢になっても良好な状態を保ち続けるためには、栄養のある食品・栄養素・特定のホルモンなどが必要です。脳の記憶を司る海馬が必要とする主な要素は、以下の3点です。

  1. 神経が発達するのに必要な構成物質
  2. エネルギー源
  3. 保護成分

≫「海馬を活性化する食生活」の詳細はこちら

脳の健康は食事から

認知症と食事の関連性についての研究は多岐にわたりますが、その中で注目を浴びているのが、地中海式食事法です。

地中海食(ちちゅうかいしょく、Mediterranean diet)とは、イタリア料理、スペイン料理、ギリシア料理など地中海沿岸諸国の伝統的な食事です。 認知症やフレイルの予防効果に対する良好な研究結果が報告されています。認知症のみならず、糖尿病や高血圧などの予防効果もあると言われています。

地中海食では、脳に栄養を与える食品や解毒作用を持つ食品が網羅されています。また、赤・橙・黄緑・緑など7色の野菜が豊富で、新鮮な魚や豆類・ナッツ類がたくさん使われています。

油はオリーブオイル。加えて、ポリフェノールがたっぷりの赤ワインを適量(1日250-500ml程度)など、栄養バランス抜群の食事法なのです。

さらに、地中海式食事と、高血圧予防に開発されたDASHダイエットの両方の長所を組み合わせたMINDダイエットという食事法も、認知機能低下予防や認知症発症予防効果が認められています。

MINDの語源は、Mediterranean-Dash Intervention for Neurodegenerative Delayの頭文字を取ったものであり、「地中海食とDASH食による神経変性を遅延させるための介入」という意味です。
ピラミッドの下に位置するものは毎日摂取し、上に行くほど、摂取の回数を減らすことを勧めています。

(出典:国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 健康長寿教室パンフレット12ページ、フレイル予防医学研究室)

≫【コラム】食事を七色の虹に

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食生活の改善と併せて見直したいポイント

ホルモンバランスを調整し、最適化する

甲状腺ホルモン機能やコルチゾール、女性ホルモン、男性ホルモンのバランスが乱れると、認知症リスクが高まると言われています。記憶や認知能力を維持するためには、ホルモンバランスを調整して最適化することが大切です。

≫「ホルモンバランスの調整・最適化」の詳細はこちら

十分な睡眠をとる

睡眠不足が続いていると、記憶障害や思考の衰退、認知症発症のリスクが高まるという研究結果が発表されています。特に、睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)が疑われる人は注意が必要です。

睡眠時無呼吸症候群には治療法もあるので、気になる場合は医師に相談することを推奨します。

≫「睡眠負債と認知症の関係」の詳細はこちら

炎症の改善

炎症は認知機能低下を進行させる重要な要素のひとつです。炎症を解決することが、認知機能低下の回復には不可欠なのです。

たとえば、歯周病のような歯茎の炎症は、間接的に脳の炎症を助長すると言われています。認知症の約7割を占めるアルツハイマー型認知症は、脳の神経細胞の中にアミロイドベータというたんぱく質が溜まることで発症するとされていますが、このアミロイドベータが、歯周病菌によって増悪する可能性が示唆されています。

つまり口腔の衛生状態が悪いと、歯周病が発病するのみならず、脳にも有害で、アルツハイマー型認知症の発症を促すことになります。

口腔の衛生については、毎日の歯磨きと、その際の電動歯ブラシや歯間ブラシ、デンタルフロスなどの補助清掃器具を使うことによって改善することができます。

加えて、ロイテリ菌というヒト由来の乳酸菌も口腔内の環境を良好にします。歯周病菌や虫歯菌の増殖を予防し、歯周病や虫歯になりにくい口内環境を作ります。

ロイテリ菌は薬品ではなく、天然のヒト由来の乳酸菌であり、人間の体内に生息してきた善玉菌なので、副作用の心配もありません。

予防歯科先進国のスウェーデンでは、「最も優れたプロバイオティクス(カラダによい作用をもたらす生きた微生物)」として、ロイテリ菌を虫歯や歯周病の予防に役立てています。

≫【コラム】4つのバイオティクスとは?

食事療法以外の代表的な5つの非薬物療法

MICの非薬物療法には、食事療法以外にも、下記のような方法があります。

  1. 運動療法
  2. 認知刺激トレーニング療法
  3. 回想法(RT:Reminiscence Therapy)
  4. 芸術療法(アートセラピー)
  5. 音楽療法

①運動療法

非薬物療法の中でも、認知症の発症予防及び進行抑制の効果を証明する報告が多数あり、特に、有酸素運動に関しては有効性が示されています。

運動は、医学的な裏付けのある認知症予防策のひとつということもあり、数多くの手法が存在し、世界中で研究が進んでいます。

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②認知刺激トレーニング療法

学習療法や漢字ドリル、コグニサイズ、脳トレなどによって、認知症の予防・改善の効果を期待できます。繰り返し行うことで脳を鍛え、記憶力や集中力などを高めます。

≫認知刺激トレーニング療法の詳細はこちら

③回想法(RT:Reminiscence Therapy)

回想法とは、MCIあるいは認知症の人が、過去の体験を思い出し、人に話すことで脳の活性化が促され、また、話を聞いてもらえたという満足感で精神的な安定も得られて、認知機能の改善が待できる心理療法のことです。

MCIあるいは認知症になって、最近の出来事は忘れやすくなったとしても、若いころや幼時の記憶は残っていることが多いため、回想法は、MCIあるいは認知症の人に適したリハビリテーションと見做されています。

個人あるいはグループで行われますが、回想には、しばしば、ビデオ・写真・絵画などの小道具を補助として使います。

回想法は病院や施設、自治体の介護予防事業などで活用されていますが、最近、回想法の装置(システム)も開発されてきています。

米国では、ある企業が開発した、アルツハイマー型認知症の回想療法に用いる装置を、FDA(米国食品医薬品局)が「ブレークスルーデバイス」に指定したとのこと。「ブレークスルーデバイス」とは、生命を脅かす重篤な疾患の患者を救うために、患者が必要とする新規で革新的な医療機器の開発及び審査の促進を目的とした米国FDAの制度です。

これは、FDAが回想法の装置を有用と認めたことを意味し、以後、同装置開発や審査にあたって、優遇措置が取られることになります。

このような例は、日本国内でもあり、認知症の予防・進行抑制に有効と言われている回想法が、さらに効果的に実施できるシステムが市場に出始めています。

④芸術療法(アートセラピー)

絵を描いたり、粘土で工作したり、塗り絵や折り紙などの創作活動を通して、脳に刺激を与えて活性化させることを目的としたリハビリテーションのひとつです。

芸術療法は、感性や感情の脳である右脳を活性化することで、脳全体の機能を向上させ、認知症の改善や予防につながる療法と言えるでしょう。

アートセラピーは、他者とのコミュニケーションを取るための手段にもなります。家族や周囲の人と共に、創作活動を行ったり、作品についていろいろと話し合うことで、喜びや満足感を刺激することができます。

⑤音楽療法

音楽療法とは、音楽を聴いたり、あるいは音楽に合わせて歌ったりしながら、カスタネットやタンバリンなどの簡単な楽器を奏でたり、踊ったりするリハビリテーション法のひとつです。

近年、脳スキャンによって音楽と脳の関係が明らかになってきていて、重要な発見としては、「音楽は脳のさまざまな部分に働きかける」ということがあります。

例えば、知っている音楽を聴くと、長期記憶を司る海馬が刺激されます。また、音楽療法は、左脳が司る言語機能が低下してきた認知症の人の脳を活性化させることができます。

また、音楽療法によって、生来、人間の身体に備わっている自然免疫に重要な役割を果たすナチュラルキラー(NK)細胞が活性化する、という論文も公表されています。